韓国・朝鮮人の離婚問題
韓国・朝鮮人が当事者となる場合、どの国の法律が適用されるか。
1 韓国・朝鮮人と日本人の離婚の場合
離婚問題の準拠法について、法の適用に関する通則法27条は、同法25条を準用し、① 夫婦の一方が日本に常居所地を有する日本人であるときは、日本法を適用すると定めています。
日本で手続を進めようとする夫婦のほとんどは、日本に常居所※を有するカップルですので、ほとんどのケースでは日本法が適用されると考えてよいでしょう。
次に、①に当てはまらない場合は次によって判断します。
② 夫婦の本国法が同一であるとき → 本国法
(例)在日韓国人の夫婦の場合 → 韓国法
③ ②にあたらないが、夫婦が共通常居所地であるとき → 夫婦の共通常居所地法
④ 夫婦が共通常居所地でないとき → 夫婦に最も密接な関係のある地の法律
2 韓国・朝鮮人夫婦の場合
この場合、法の適用に関する通則法27条により、「夫婦の同一本国法」の適用が考えられます。
しかし、ここでいう「同一本国法」とは、各自当事者につきその本国法を一つに絞り込み、絞り込まれたそれらが一致している場合の本国法のみを意味すると解されています。
したがって、「同一本国法」を判断するには、その前段階として、夫の本国法及び妻の本国法をそれぞれ決定しなければなりません。
韓国・朝鮮人の本国法決定については、分裂国家に属する者の本国法の問題となり、多数の学説は、韓国法と北朝鮮法のうち、当事者とより密接な関係のある法をその本国法とすべきと考えています。したがって、例えば、夫の本国法が韓国法、妻の本国法が北朝鮮法と認定された場合、夫婦の「同一本国法」が存在しないこととなります。
したがって、韓国・朝鮮人夫婦の場合、法の適用に関する通則法27条により「夫婦の同一常居所地法」が適用されることとなります。日本で手続を進める場合のほとんどは、日本法になるでしょう。
3 韓国法が準拠法となる場合
韓国法では、離婚について、日本と同様協議離婚を認めています。
しかし、協議離婚においては、次の点が問題となります。
①家庭法院の確認
各国の協議離婚は、戸籍公務員に離婚の届出を行う前に、韓国の家庭裁判所において、その確認を受けなければならないとされています。したがって、日本で協議離婚を行う場合、この確認をどのように処理したらよいかが問題となります。
この「確認」について、日本の戸籍実務では、協議離婚の方式に属するものと解されており、韓国人夫婦が日本で協議離婚をする場合、確認を得なくても、協議離婚の届出がなされた場合、受理する扱いとなっています(昭53.12.15民二第6678号)。
なお、学説には、上記について、批判的な見解も有力です。この見解は、家庭法院の確認手続を単なる方式ではなく、真正でかつ自由な意思による離婚制度を実現するために設けられた制度であると解し、離婚の実質の問題と性質決定するものです。この見解によれば、日本で韓国人夫婦が離婚する場合、駐日韓国大使館ないし領事館を通じて韓国家庭法院の確認を得るべきこととなります。
韓国における離婚の効力
上記は、あくまで日本における離婚の方法についてです。韓国においても離婚の効力を及ぼしたい場合は、原則どおり、韓国の家庭法院で確認を受け、韓国の役場に離婚届を提出することとなります。
②協議離婚と離婚による損害賠償請求権
韓国法においては、裁判上の離婚の場合、過失ある相手方に対して、離婚によって被った財産上の損害と精神上の苦痛に対する損害賠償請求権を認めています。
しかし、協議離婚については、このような規定が存在しないことから、韓国においては損害賠償を請求できないと考えられています。
したがって、日本で協議離婚をする場合、離婚にともなう損害賠償請求が認められないかが問題となります。
この点について、協議離婚において、離婚慰謝料を認めない韓国民法を適用することが公序に反するとして、韓国法の適用を排除した裁判例があります(神戸地判平2.6.19)。
4 北朝鮮法が準拠法となる場合
北朝鮮の離婚制度は、協議離婚を認めず、裁判離婚のみとなっています。
したがって、北朝鮮法を準拠法とする場合、日本において、どのような形で進めるかが問題となります。すなわち、協議離婚は認められなくても、調停ならいいのか、若しくは訴訟によらざるを得ないのか、という問題です。
この点、北朝鮮法が司法機関の判断を前提としている以上、調停での処理は適当ではないと考えられます。
ただ、日本の裁判例の中に、当事者間の合意が成立している事案で、審判離婚を認めた事案があります(札幌家審昭60.9.13)。
したがって、審判手続によって処理することも、特に問題がないといえるでしょう。